MDMについて

MDMについて

MDMとは

マスター・データ・マネジメント (MDM)についての定義は、多様に存在するが、ガートナーリサーチに2006に定義されたものが、広く欧米で受け入れられており、それを参考に、以下のように定義する。

  • マスター・データは、トランザクションに対し、コンテキスト*を与える対象、その対象は、ユニークに定義したもので、その対象(人、場所、その他)に価値付けする。
  • マスター・データ管理とは、以下の二つの機能を満たすものと定義している。
    • (a)参照データの”意味論の一致“を介し、異種のデータソースを企業内横断的にマスター・データの全体的同一化、関係付け及び同期化を支援すること
    • (b)集中データベース・システムを作り、管理を実現するプロセスと技術であり、以下のような機能を実現するシステムを意味する開発をすること
    • ア) データの有効化(Validation)、と“意味論の一致”
    • イ) 自動化された同一化と型変換
    • ウ) 手作業による例外プロセスのための支援
    • エ) データ移動と同期化
    • オ) 継続的データ収納

*「文脈」という意味の英語で、様々な用例があるが、特に、実行中のプログラムが処理内容を選択する際の判断の材料となるプログラムの内部状態やおかれた状況、与えられた条件などを指すことが多い。例えば、複数の型の引数を取ることができるようになっている演算子や関数が、引数の型に合わせて返り値の型を選択する場合がある。このような場合、その演算子や関数を呼び出す際の引数の型がコンテキストである。

CRM(顧客関係管理)システムの場合の場合、Aシステムでは、既婚・未婚を、既婚(0)、未婚(1)として、シングルバイトで管理されており、Bシステムでは、既婚・未婚を、既婚(既)、未婚(未)としており、ダブルバイトで管理されている。A及びBの各システムは、固有のデータベースを維持しており、データベースの内容の変更、ある人間が結婚して場合、Aシステムでは、既婚者になっており、Bシステムでは、未婚者になっていた場合、企業内システムでは、矛盾が発生する。一般消費者向けを対象としたシステム場合、既婚者か未婚者により、提供する情報内容が、大幅に変化する。ア)のデータの有効化と“意味論の一致”とは、関連しているシステムでは、常に、同一の内容、すなわち、ある人が、結婚した事実が、Aシステムで更新されれば、即刻Bシステムにおいても更新される必要がある。

MDMシステムが実現されている環境においては、ア)からオ)までの機能が支援されている状態を指す。ここで指す集中データベースとは、各システムの上位に存在するデータベース項目内容構造に変化が発生すれば、アプリケーション・プログラムの変更が必要となるため、変更することは、極めて難しい。

MDMの必要性と主要目的

マスター・データは、元より、複式簿記が開発されて以来、存在しており、日本では、大福帳として、広く認知されてきている。複式簿記の概念に従い、国内では、1960年代後半から、システム化され、当初は、汎用大型コンピュータないし、いわゆるオフコンで集中管理されてきた。コンピュータシステムの歴史は、概ね集中=>分散=>集中というような繰り返しである。1950年代から1980年代までは、あくまで処理を中心とした分散=>集中の繰り返しであった。

しかし、1980年代後半から、パーソナルコンピュータが活用されるようになり、それ以前のデータ管理方式と全く異なる方式が広く活用され始めた。それが、クライアント/サーバーシステムの出現である。着目すべきは、データを各自が自由に管理可能になったことであり、それが、それ以前のシステム概念と大きく違う点である。

企業内では、概ねコンピュータ部門、ないしIT部門が存在し、マスター・データが検討されるとIT部門がある程度管理したため、各データ項目(メタデータ)は、集中的に掌握されており、管理されている状態にあったが、安価でかつ容易に利用できる技術開発(リレーショナル・データベース、簡易言語、など)システムとそれを容易に実現するクライアントサーバシステムの出現により、安価で、部門別に容易にマスター・データが作成、個別に管理されるようになり始めた。

その結果、多様なシステムが社内に存在し、なおかつ、IT部門が十分な統制ができなくなってきた。

無論、全て中央で管理・統制すべきではないが、データ管理とう視点からは、望ましい状態ではない。

一方、外部的要因については、1980年代後半から顧客データ、特に見込み客データの取り込みにより、マーケティング活動を効果的に行うようになり、その結果外部データの取り込み、活用も盛んになってきた。国内では特に、パソコンの普及により、漢字処理が極めて容易になり、一挙に、従来対象になっていなかった顧客データがシステムに取り込まれるようになったのも、重要な点である。それらの結果、以下のような問題が顕在化し始めた。

MDMを必要とする業務上の動機

  • 損失費用ないし売上げ機会損失
    • 1-1) キャンペーン実施に関する費用増加
    • 1-2) 製品の一貫管理ないしサプライチェーンにおける各種の問題
    • 1-3) コールセンタ運用における非効率かつお粗末な顧客対応
  • 規制による圧力
    • 2-1) 個人情報保護法
    • 2-2) JSOX
    • 2-3) 各種金融報告書のための調整上の課題
  • M&Aによる統合
    • 3-1) 多種の事業統合による企業データの整理統合
    • 2-2) JSOX

1-1)のキャンペーンについては、前述の通り、各部門でデータ管理されている場合、部門内部では、重複は、発生しにくい。しかし、部門横断的に、管理する仕組みが存在しない場合、上記のように、同様なキャンペーンの通知が同一顧客に複数部門から送付され、無駄な付帯費用が発生し、なおかつ、顧客に管理状態の悪い企業という否定的な印象まで与えてしまい、全く悪いことばかりになってしまうことになる。

1-2)のサプライチェーンにおいては、以下の各プロセスでマスター・データが影響を与える。

サプライチェーン・プロセス 関係者 マスター・データの影響を受ける処理
計画 エンジニアリング 供給こと業者の調整、部品調査
各種部材 資材調達 ベンダーカタログ管理、全社的購入分析
作成 製造 製品情報管理
出荷 配送 全社データ同期、製品コンテンツ管理
販売 顧客 製品カタログ管理、顧客データ統合

全社規模でマスター・データ管理が精緻に実施されていれば、例えば、各種部材の種類が大幅に圧縮可能である。大手自動車メーカーでは、MDM実施後、10分の1の部品点数に激減したという事例もある。

1-3)コールセンタ系システムは、既存システムとは別に開発・運用されるケースはまれではない。他のマスター・データに収納されているデータとの同期化が十分考慮されていないため、既婚者に対し、未婚者のような扱いを行い、顧客に不愉快な思いをさせる結果となることがある。

2-1)個人情報保護法に関わる問題としては、各社毎に、個別のコンプライアンスを制定し、運用を指している。その際、社内個人データの扱い、また顧客個人データの扱いは、それぞれ別なシステムで運用されており、コンプライアンスの運用システムの構築においては、関連する全システムとの同期を考慮する必要がある。

2-2))JSOXについても、個人情報保護法と同様な配慮が必要となるが、既存データとの関係付けが明確に整理されていない場合、抜けが発生し、一応、JSOX運営上は、正しく見えても、最終的にデータの照合を行うと、不適正なことが発生し、管理上の問題になることがある。

3-1))企業間の吸収ないし買収により、別の企業が同一管理になった場合も同様に、過去において関連する各企業における各データ間の照合が必要となる。

以上、データ管理における諸問題に対し、MDM適用のトリガについて、一般論として述べたが、潜在的には多くの問題が存在する。